いわくつきカノジョ
※双子夢主(姉メイン)

 妹から教えてもらった待ち合わせ先に到着する。そこには妹が伝えた「髪はボサボサ。猫背で眠たそうな顔立ち」という特徴に合致する人が立っていた。「ジャージかもしれないけど引かないでね」って言われたが、スーツを着ているところを見ると今日のデートは楽しみだったんじゃないかな、と少し申し訳なくなる。しかし、カラ松の兄弟となると知っておきたい感情がむくむくと湧き上がってくるわけで。

「い、一松!お待たせ」

 妹ってどんな喋り方だったっけ、とか思いながら彼に声をかける。「待ってないから、別に」と素っ気ない反応だけど、鼻が赤くなってるのを見るとずいぶん前から待っててくれたみたいだ。手をきゅっと繋いで「でも冷たいよ?」と言えば「……冷え性なだけ」と返された。あ、かわいいっていうのなんかわかるかも。ごめん、カラ松じゃないとはいえ同じ顔だったらきゅんとしちゃう。ごめん!!!

「どこに行くの?」
「は?……カフェ行きたいって言っただろ」
「あ、うん!そうだったね!」

 おい、妹。情報ガバガバじゃん!早速疑われてるんだけど!?
 カバンから携帯を取り出して見つからないようにLINEを送る。さすがに携帯はお揃いじゃないので見られたら終わりだ。

「甘いの好きだよな、ほんと」
「え、あ、うん。幸せになれるもん」

 家でいつも言っている言葉だ。私はあまり甘いの得意じゃないんだけどな……大丈夫かな、なんて既に不安になる。ピコンとLINEの通知で携帯が揺れる。たぶん妹からだろうけど今は見れない!ごめん!

「ここ」
「わ、かわいい!」
「……ならよかった」

 ほっとした表情を浮かべる。……喜ばないとでも思ったのかな、私でも喜ぶようなお店を妹が喜ばないわけないのに。

「入ろ?」
「……うん」

 中も妹が好きそうな乙女チックの作りになっていて、白を基調とした空間に薄いピンクが映えていた。そんなことを思っていると「ご予約の松野様ですか?」なんて聞かれて「はい」と答える彼はどう考えてもこの場にいるのが想像しづらくて。一生懸命予約したんだろうな、となんだか微笑ましくなった。

「ん、何頼む?」
「えーと、ね」

 席についてメニューを開いた一松くんが、私に訊ねる。なにを頼めばいいのか全くわからず、ごめんちょっとトイレと席を立った。

妹:カラ松さんっていい人だね!って、そうじゃなくてお姉ちゃん情報少なすぎ!テンパっちゃったよ〜!
『ごめんごめん!あのさ、××っていうカフェに来てるんだけど何食べたい?』
妹:え!そのカフェ行ったの?いいな〜!あのね、私ここの超有名なパフェ食べたいの!お願いね!
『わかった。そっちはどう?』
妹:お洒落なレストランに連れてきてもらったよ。パスタ食べてる
『そっか、バレないようにね』
妹:もちろん!

 パフェか。妹が好みそうだな、と勝手に考える。果たして私が食べきれるかどうかわからないけど、ここは妹の情報に頼る他ないのでなんとか食べきらなくては。

「おかえり」
「ただいま。あのね、パフェ食べたい!」
「これ?」
「う、うん!」

 当店人気No.1とかかれたパフェを指さす一松くん。とっさにうん、と答えたけどこれ、めちゃくちゃ甘そう。……大丈夫かな。

「いちごのメリーゴーランパフェをひとつとブラックコーヒーひとつください」

 ピンポンをおし、到着した店員に顔色ひとつ変えずそう告げる一松くん。口に出すだけでも恥ずかしいような名前なのに、と思っていると店員が去ったあと、うっすらと顔が赤くなったのに気が付いた。

「ごめん、私が言えばよかったね〜」
「……別に、いいよ」
「んー楽しみだなあ」
「そう」

 言葉は冷たいのに、私を見つめる目が優しくて、ああ愛されてるんだなあと素直に羨ましく思った。それと同時に、申し訳ない感情が湧いてきて。

「(せめて、一松くんが喜んでくれるようにしっかり妹を演じなくちゃ)」

 そう思った。


「お待たせしました、いちごのメリーゴーランパフェにブラックコーヒーになります」

 愛想のよい店員さんが優しくパフェとブラックコーヒーを置いて、ごゆっくりどうぞと微笑んだ。……とてつもなく甘そうなパフェが目の前に現れる。おいしそうだとは思うけど、こんなにいらないなあ。

「いただきます」
「ん」

 スプーンで掬って一口食べる。程よい甘さと酸味が口の中に広がって素直においしいと感じた。ゆっくりならば全部食べられるかもしれない。

「おいしい!一松は、いらない?」
「んー……」
「おいしいよ?一口食べよ?」
「じゃあ、もらう」
「うん!」

 量を少しでも減らしたくて、何気なく言った一言のつもりだった。スプーンを手渡して自分で食べてもらおうと思っていたんだけど、動かない彼を見て、「あ、これあーん?」と自分で思ってしまった。

「……あーん」
「ん。……甘い。けどうまい」
「そっか。よかった」

 気恥ずかしいけど、喜んでくれたみたいでよかった。「なにも食べないの?」と聞いたら「いらない」と言われたので私はパフェを食べ進めることにする。
 妹は上手くやれているだろうか、とふと不安になる。バレたらまあ、怒られるだろうけど、もし喧嘩なんてしてしまったら。
 カタンッ。

「あ」

 携帯が、落ちた。

「?」

 彼が覗き込む前に、慌てて携帯をとろうとしたが、無理だった。覗き込んだ彼はふいに視線をあげて。

「なるほどね」

 意味深なことを呟いた。

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